マンションのモデルルームに行くと、たいていはまず最初にシアタールームでショートムービーを見ることになる。
ここに住んだらこんなに素敵でキラキラなマンションライフが待ってますよ!という気分にさせるためのムービーになっていて、それぞれに趣向をこらした内容になっている。
過去たくさん見てきたが、その中に今でも忘れられないあるシーンがある。
豊洲のタワーマンションのモデルルームで10数年前に見たムービーのワンシーン。
50代くらいのハイソな雰囲気の夫婦と若いカップルが出てくるストーリーなのだが、その夫婦のご主人の通勤シーンである。
大学の教授っぽいそのご主人は、電車でもバスでもタクシーでもなく、小型フェリーで舟通勤をしていたのだ。東京湾をかっこよくフェリーに乗って通勤している男性の映像が今も心に焼き付いている。
舟通勤だなんてまあ素敵!と思ったからではない。
確かに豊洲のららぽーとには船着き場があるが、まったくもって観光客向けのルートだし、あれで通勤って、んなことあるかい、とつっこまずにはいられない設定だったからだ。
でも、せっかく湾岸なのだし、信号も渋滞も無い舟便を日常の交通手段の一つとしてもっと有効活用できたらいいのになあ、との思いは湾岸住まいをする中で、なんとなく心の中に漂っていた。
そして、今、私は晴海フラッグに住んでいる。
朝起きて、窓から外を見るとすぐそこに船着き場がある。
8時過ぎになると小型のフェリーがやってきて、数人の乗客を乗せて出航して行くのが見える。
舟旅通勤、BLUE FERRYの舟だ。
晴海五丁目船着場から、日の出の船着場までの晴芝Routeという運行ルートがあり、所要時間は約5分。
火・木の朝の時間帯のみ運行している。
舟通勤が当たり前になる時代がついに来ているというのか?
出ていく舟をベランダから見ながら、昔モデルルームで見たそのムービーを思い出したのだった。
家のすぐ前から舟が出ているのだ。これは乗ってみなければならないだろう。
とある木曜日の朝、天候も問題無さそうだったので、念の為運航情報をサイトで確認して、晴海五丁目船着場へと向かったのだった。
乗船場所は、ららテラス隣のマルチモビリティステーション(BRTの発着場)のそばにある。
船着場に待合室などは無く、舟が来ていない時は人の気配も無い。桟橋の入口は通常は施錠されている。
10時の便を待っていると、出航時刻の5-6分前に船着場に舟が到着。スタッフが降りてきてゲートを開き、乗船手続きが始まった。
私を含めて乗客は3人。1人はよく利用していそうな会社員風、私以外のもう1人の方は、カメラ片手に初めての乗船といった様子。
事前予約をしていなかったので、PayPayで大人片道500円をその場で支払った。
当日精算はPayPayのみ可とのことだが、現金で支払っている人もいたので、場合によっては可能なのかもしれない。
Webで事前予約をした場合は、そのeチケットを表示すればよいようだ。
桟橋から小型船に乗り込む。旅客定員は44名とある。
タラップなどはないので、乗船の際はまたいで乗ることになり、少し注意が必要だ。車椅子の人は一旦降りる必要がある。
1階は前方が船室、後方がデッキになっていて、2階はデッキと運転席だ。
1階の船室は空調が効いていて、窓から外を眺めることができるし、前方の様子は船内のモニターで見ることができる。お手洗いも完備。
飲食可なので、コーヒー片手に舟通勤もありかもしれない。(とはいえ、近くで朝からコーヒー買えそうなところは少し離れたファミマくらいしかない。BLUE FERRYのサイトを見ると、準備中とあるので、今後船内でコーヒー販売の予定があるのかも?)
定時になり、舟は時間通りに出航。
日差しの強い日ではあったが、景色を楽しみたかったので2階デッキへと上がる。
桟橋から離れると、すぐに左手に晴海ふ頭公園に停泊中の船と前方にレインボーブリッジが見えてきた。
この景色はいつ見ても圧巻、である。
デッキは風が心地よい。
うわぁ、と辺りを眺めていると、あっという間に日の出船着場に到着した。5分は短い。猫舌はコーヒーに口をつける前に着くかもしれない。
日の出船着場は、他の運行路線もでており、広い待合室もある船着場だ。待合には別の便を待っているのか、数人の客がいた。
舟を降りて辺りを見回すと、私の好きなインターコンチネンタル東京ベイがすぐそばにある。10時の便だとアフタヌーンティーにはだいぶ早い。昼便があれば絶対使うのになと思いつつ更に内陸側に目をやると、高層オフィスビル群が見える。このあたりが勤務先だと、この舟のルートは通勤にも使えるのかもしれないなと思う。
日の出船着場からの近くの駅はというと、ゆりかもめの竹芝駅または日の出駅までは歩いて3分ほど。JR浜松町駅までは少し距離があり、徒歩10分くらいはかかりそうだ。
晴海フラッグから竹芝付近までたった5分で来られることに驚くが、竹芝から新橋まではゆりかもめで4分。つまり晴海フラッグからBRTで新橋に行くのと舟+ゆりかもめを使うのとで、かかる時間は大差ない。新橋に行くならばBRTのほうが便利だが、竹芝近辺に行く場合や、浜松町からモノレールに乗る場合などは、舟を使うのも選択肢の一つとしてありだ。
また、日頃はバスを使っている人でも、時間帯さえ合えば、「今日はレインボーブリッジ眺めながらゆったりと海路で行ってみるかな」とふと思い立って乗ることが可能だ。
片道500円(*)は、日常使いには値が張る感じがするし、現在は対応可能な船長不足とのことで、火曜と木曜の朝のみの運行のため、実際のところ通勤に使えるものではない。現実として、利用者も多くはない。(ただし、今後体制を強化してダイヤは拡充予定とのこと)
(*)2024年10月末まで、Web事前予約で、半額割引実施中!大人片道250円。
しかし、晴海フラッグは三方向を運河に囲まれていて、それぞれに船が停泊する場所があり、日常の風景に船が溶け込んでいる町だ。
舟/船を交通手段として積極的に活用する流れはなくならないで欲しいと思う。
近頃では舟の無人操縦も可能になっていると聞くから、操縦士不足もそのうち解決するのではないだろうか。
舟”通勤”にこだわらずとも、普段使いの舟として時間帯や便数などもう少し使い勝手がよくなれば、利用者は増えるのではないかと思う。
夕陽に染まるレインボーブリッジを見ながら、舟で晴海フラッグに帰ってくるのもまた楽しいのではないだろうか。
※BLUE FERRYの最新の運行情報などは、こちらを参照ください。
https://blue-ferry.mobi/
■前回のハルフラのりすちゃんさんの記事
マンションも駐車場も手に入れるには運が必要な時代!? 晴海フラッグの駐車場事情